1549人が本棚に入れています
本棚に追加
「まだ凜子の彼氏でも何でもねぇ俺が……こんなこと言える立場じゃないのは分かってっけど……。――とりあえず何かする時は連絡くれるか?」
いつも自信満々に命令口調で話す奏芽さんが、どこか弱気な調子で歯切れ悪く私にそうお願いをしてくるのが新鮮で逆に落ち着かない。
常のように、まるで指図するみたいに「連絡して来い」って言われたんだったら、「そうですね、気が向いたら」とか突き放した返しが出来るのに。
今回は違ったから……。
私は小さくうなずくので精一杯だったの。
***
「で、着替えどうする?」
再度問いかけられて、私は結局一旦家に帰宅してから着替えさせてもらいたい、とお願いした。
その段になって、「分かった。――で、家どこ?」と聞かれてハッとする。
奏芽さんとはいつもバイト先のコンビニで会ったり、道端で会ったり……生活圏内のどこかでたまたま居合わせる形で出会うことばかりだった。
大学こそ、どこに通っているのかバレてしまったけれど、アパートはまだ知られていないんだった。
家に連れて帰ってもらうってことは、どこに住んでいるのか奏芽さんに明かすということで。
そんな単純なことを、私、すっかり失念していたの。
「あ……」
今更、やっぱりこのままでいいです、と言うのもおかしいし……かといってお付き合いもまだなのに家まで送っていただくのも何か違う気がして――。
最初のコメントを投稿しよう!