私、どうしようもなく奏芽さんが

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 そこで、私はふと折衷案(せっちゅうあん)を思いつく。  幸い駐車場(ここ)からならアパートまで徒歩5分圏内。  奏芽(かなめ)さんには駐車場でこのまま待っていてもらって、私だけ一旦家に向かうとか……どうかしら?  そう提案しようと奏芽さんの方を向いたら、「ここで待っててって言うのは却下な」って先手を打たれてしまった。 「えっ」  思わずびくっと肩を跳ねさせたら、「俺に家知られるの、嫌?」って真剣な顔で聞かれてしまう。  嫌なわけでは……ない――。  ただ……何となく。  そう、何となく、自分の中の倫理観と照らし合わせたら、そこもすべてが解決してから、のラインの向こう側に位置していただけで。  じゃあその境界線はどういう基準で引いているの?って考えたら結構曖昧で上手く説明できない――。 「なぁ凜子(りんこ)、言い方変えていい?」  奏芽さんが私の迷いを悟ったみたいに、言い募ってくる。  彼の言葉に戸惑いながらも首肯したら、「幼なじみの〝のぶちゃん〟とやらは……凜子の家、知ってるのか?」って、痛いところを突かれてしまった。  私はグッと言葉に詰まる。
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