私、どうしようもなく奏芽さんが

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***  結局奏芽(かなめ)さんに言い返すことが出来なくて、私はアパートまで彼に送ってもらうことになってしまった。  アパート前の道。  ここからなら私の住むアパートが一目で見渡せてしまうという位置に車を停めた奏芽さんをじっと見つめて 「あ、あの……」  ソワソワしながら声を掛けたら、 「家ん中まで入れろとは言わねぇよ。安心しろ」  って頭をクシャリと撫でられた。  そもそも車自体が路駐になってしまうので、奏芽さんは車を離れることが出来ないらしい。  でものぶちゃんはうちに来た時、玄関先まで迎えに来てくれたし、何なら引越しのときは部屋の中まで荷物の搬入もしてくれた。  彼はその際、車をどうしていたんだろう?  ただ単に気にせず離れただけ?  ふとそんなことを思ったけれど、下手につつくとヤブヘビになりそうだったので言わずにおいた。 「す、……えっと……10分くらいで支度してきますっ」  車外に出て車の中の奏芽さんに声を掛けてから、助手席のドアをそっと閉める。  すぐ、と言いかけて明確な時間を告げなきゃ、とか思ってしまうのも、私の性格のなせるわざだ。  すぐ、とかちょっと、とか曖昧な表現がどうも苦手で……。  国産車なら助手席側が壁寄りになるんだろうけれど、奏芽さんの愛車は左ハンドルなので、進行方向を向いた状態で壁際に車を寄せても、助手席側のドアの開閉は楽なんだなぁとかどうでもいいことを思ってしまった。  あ、だから奏芽さん、のぶちゃんみたいに車を気安く降りられないのかな?  日本で左ハンドルってやはり結構面倒なんじゃないかしら?とか、免許もないくせに考えてしまうのは私の悪い癖なんだろうなぁ。  アパートに小走りで向かいながら、それでもそんなことを考えるのをやめられない。
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