私、どうしようもなく奏芽さんが

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「鍵、ちゃんとかけてきたか?」  もっとその余韻に浸っていたいのに、ふいっと視線を逸らされてアパートのほうを指差す奏芽(かなめ)さんに、「だっ、大丈夫です」と答える。 「俺もちゃんと雨宮(あまみや)には連絡しといたから安心しろ。――じゃ、行くか」  言って、ふと動きを止めると、「凜子(りんこ)、やっぱりダメみてぇだ。――すまん」っていきなり謝られて――。  え?って思ったときには奏芽さんにグイッと抱き寄せられて唇を塞がれていた。  決してエッチなキスではなくて……唇と唇がほんの一瞬触れるような軽いキスだったけれど、私はドキドキが止まらない。 「待つって言ったのに……(わり)ぃ」  小さく吐き出すように告げてから、奏芽さんが私を腕から解放してくれた。 「あんまり可愛いから……我慢できなくなっちまった」 「……っ」  突然のことに何て答えたらいいのか分からなくて唇を押さえてうつむく私に、 「なぁ、髪、右に寄せて結んだの、わざと?」  って奏芽さんが聞いてきて。 「え……?」  質問の意図が分からなくて思わず彼を見つめたら、「無意識かよ……。マジか」って溜め息をつくの。  左ハンドルの奏芽さんの車――。  右に寄せて結んだ髪。  奏芽さんから見たら、期せずして首筋から鎖骨に掛けてのラインがはっきり見えるようになっていたとかで、かなりそそられてしんどいんだけど、と苦笑された。  まさかそんなことを言われるとは思っていなくて、私は思わず首筋を押さえて奏芽さんを見る。 「ごっ、ごめんなさいっ」  逆サイドに寄せて結べばよかった!って思ったけれど、後の祭りだった。
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