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「そういやこの前、霧島が音芽ちゃんと来たぞ」
奏芽さんが照れていることなんてまるで気付いていないのか、はたまたお構いなしなのか。ふと思い立ったとばかりに雨宮さんが言って、奏芽さんが「ああ、俺が娘を預かってやったからな」と答える。
そこで、所在なく立ち尽くしたままになってしまっていた私に視線を寄越した奏芽さんが、「ほら、寿司屋で会った日に俺が連れてた女の子の両親な?」と補足して下さる。
奏芽さんの姪っ子ちゃん。確か名前は――。
「和音ちゃん……」
思い出したままに何気なくつぶやいたら、「凜子、ホント記憶力いいな」って褒められた。
***
「ま、そんなところに突っ立ってないで、とりあえず座れよ」
雨宮さんに促されて、奏芽さんが「ああ」と言って、私に「おいで」と声をかけてくれる。
奏芽さんの妹さんや幼なじみさんのお話、もう終わりなのかな?
私の知らない奏芽さんのことをもう少し知りたくて、誘われるままにカウンター席に座りながらも、催促するみたいにちらりと雨宮さんを見つめる。
雨宮さんはその視線を、私が手にしたままだった荷物の置き場に戸惑っていると受け取ったらしい。
「カウンター下が棚になってる……」
ポツンとそれだけ言って、黙ってしまった。
う〜。残念。
私から水を向けるのも変な話だし……奏芽さんもあれ以上はさっきのことを話すつもりはないのか、ふっつりとその会話は途切れてしまったの。
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