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走って走ってようやくバス停が見えてきたところで――。
バスが! 乗らないといけなかったバスが! 角を曲がって走り去っていく様が目に入った。
もぉー、もぉー、もぉー! 本ッ当最悪っ!
あの男の通せんぼさえなければ余裕で間に合っていたはずなのに。
一限目はどうしても落としたくない講義だ。どうしよう……。
バスは上りも下りも1時間に1本か、多い時間帯でも2本。
次の便を待っていたのでは、完全に遅刻。
(タクシーで……)
ふとそう思ったけれど、片親世帯の貧乏学生の私にはハードルが高すぎる。
そんな無駄遣いをしたら、必死で働いて私を大学まで行かせてくれている母に申し訳が立たない。
誰かお友達と乗り合いで、とかならまだしも、一人で乗るのとか……絶対に無理。
うー。
バス停まであと数メートルという地点に茫然と立ち尽くして泣きそうになっていたら、諸悪の根源がのんびりと追いついてきた。
「なぁ、なぁ。――ハウスって……俺、犬じゃねぇんだけど」
言われて、「犬の方がマシ!」と睨みつけたら「わー、凜子ちゃん、ご機嫌斜めぇ〜。絶対女の子の日だろ?」って更に神経を逆撫してくるとか……。
この男には本当、デリカシーってものがないのかしら。
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