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「すまん」
所在なげに小さく謝ってから、もう一度よく通る低音ボイスで「似てるって言っても、マジで髪型だけだから」って繰り返して――。
「でも……〝そこは〟似てる……んです、よね?」
髪型だけだとしても。
やっぱりそうなんだって思ったら、何となく胸の奥がギュッと苦しくなって、奏芽さんをまともに見ることが出来なくなる。
妹扱いは嫌なのに――。
***
「なぁ、ちょっと口挟んでいいか?」
と、今まで私たちのやり取りを静かに聞いているだけだった雨宮さんが、珍しく割り込むようにポツンと声をかけてきて。
私は思わず雨宮さんの方を見た。
「俺が要らんことを言ったせいで2人が喧嘩になったら嫌だから言わせてもらうんだけど――」
そこで、黙り込んでしまった奏芽さんをチラリと見ると、雨宮さんが続けた。
「なぁ、お嬢さん。こいつの大事な妹に似てるってぇの、そんなに悪いことなのか?」
静かだけれど、有無を言わせぬ声音で告げられた言葉に、私は思わず息を呑む。
「――おい、雨宮」
まるで私を責めるみたいな雨宮さんの口調に、奏芽さんが咎める様に口を挟んだけれど、彼は奏芽さんを無視して続けるの。
「それがさ、アンタのことを鳥飼が気にかけるきっかけになったってんなら……逆に喜ばしいことなんじゃないのか? ――少なくとも……俺がアンタと同じ立場なら喜ぶけどな?」
言われて、私はハッとする。
確かにその通りなのかもしれない。
私の髪型が、奏芽さんの中で妹さんとダブって見えなかったら、もしかしたら奏芽さんは私のことなんて気にも留めてくれなかったかもしれないのだから。
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