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さっきみたいに拒絶するのもおかしく感じられて、私はガチガチに固まったまま、奏芽さんが毛先をもてあそぶのを、うつむいたまま甘受していた。
ややして、私の髪の毛をそっと引いてうつむいたままの視線を上げさせると、
「逆にさ、飯食いに連れてった相手からそんな風に気遣ってもらったことなかったわ。――凜子、あんがとな」
ってお礼を言われてしまった。
ひゃー、奏芽さんっ。
何で貴方はそんな恥ずかしいセリフがさらりと言えちゃうんですかっ?
遊び人時代とやらの名残ですかっ!?
思わず照れ隠しに奏芽さんをキッと睨み付けてしまって、苦笑される。
「え? 何で俺、凜子褒めたのに怒られてんの?」
お、怒ってません!
そう返したいのに返せない程度には、私、貴方に振り回されています。
***
奏芽さんとのひとときは、私をどんどん彼にのめり込ませていく。
このままじゃ、ダメだ。
中途半端に奏芽さんの優しさに甘えてばかりで、私は彼に何も返せていない。
奏芽さんからの、「付き合わないか?」という言葉にさえも、お返事できていないもの。
行きしなと同じ地点まで奏芽さんに送ってもらった私は、アパートの洗面所でサイドにまとめていた髪をほどくと、それをほぐしながら決意する。
のぶちゃんに、連絡を取ろう――。
時刻は二三時過ぎ。
のぶちゃん、まだ寝てないよ、ね?
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