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のぶちゃんは優しい人だから、いくらなんでも私を無理矢理どうこうなんてことはしないと信じてる。
でも、そう思っていても……のぶちゃんだって男性だし、もしもがないとも言い切れないから……。だから本当にすごく怖かったの。
のぶちゃんってば、扉が閉まったとき、多分無意識に、だと思うけど、鍵をかけたりするんだもん。
小さく吐息を落とすと、私は未だ玄関先に突っ立ったままののぶちゃんに声をかけた。
「あのね、のぶちゃん。私、のぶちゃんの気持ちには――」
そこまで言ったところで、私はのぶちゃんに手を引っ張られて、気がついたら彼の腕の中に抱きしめられていた。
のぶちゃんの手から、お弁当の入ったビニール袋が音を立てて落ちる。
「えっ、あっ、あのっ、のぶちゃんっ!?」
ギュッと胸元に身体を押さえつけられて、抗議の声が押しつぶされたようにくぐもって聞こえた。
「外に出たから安心しちゃったの? このアパートの先が袋小路になってるの、知らないわけじゃないよね、凜ちゃん」
言われて腕を緩められた私は、のぶちゃんが指差した先に、彼の車を垣間見る。
車はのぶちゃんが言ったように、アパートの前の道を数mそのまま行った先の、どん詰まりのところに寄せられて停められていた。
「道の先がないってことはさ、このアパートに用がある人以外はここを訪れないってことだよ?」
夕闇に包まれつつある、黄昏時。
薄闇の中、廊下のシーリングライトに照らされた中で、のぶちゃんがポツンとつぶやく。
「ホント、腹立たしいくらい凜ちゃんは無防備だ」
1フロアに2世帯ずつ、計4世帯しかない2階建てのアパート。
2階に住んでいるお隣さんは、いつも深夜近くならないと戻ってこないのを、私、経験で知ってる。
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