バイバイ、私の初恋の人

19/19
前へ
/615ページ
次へ
 あわよくば、(りん)ちゃんが想い人と上手くいかなかったとき、付け入らせてもらいたいし。  そう付け加えてふっ、と声を出して小さく笑ったのぶちゃんに、私の胸はギュッと締め付けられて苦しくなった。  これは、のぶちゃんの精一杯の優しさだ。  私が辛くならないように……自分が一番しんどいはずなのに、こんな風に気遣ってくれる。  私は……のぶちゃんのそういう優しさが、子供の頃から大好きだった。  のぶちゃんみたいな慈悲深い人になりたいって、ずっとずっと憧れていた。 「ん、付け入られないよう、頑張る……」  泣きそうになるのをグッと堪えて、にこっと笑ってそう返したら「うん。頑張れ、凜子(りんこ)」ってつぶやくように言われた。  凜子――。  のぶちゃんから「凜ちゃん」以外の呼び方をされたのは、本当に久々だ。  そういえば幼い頃はずっとこんな風に「凜子」って呼ばれてたっけ。 「有難う、信昭(のぶあき)お兄ちゃん……」  私もその頃みたいに彼を呼んだら、のぶちゃんが一瞬驚いたように私を見つめてから、「うん」って微笑んだ。  バイバイ、のぶちゃん。  バイバイ、私の初恋の人――。  歩き去っていくのぶちゃんの背中を見送りながら、私は心の中でそう、つぶやいた。
/615ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1550人が本棚に入れています
本棚に追加