大嫌いな常連客

11/15
前へ
/615ページ
次へ
 言われたセリフを頭の中でゆっくり転がして、意味を理解したら何だか自然と口元がほころんだ。  だってこの人、こんなにチャラチャラしているくせに、変なところにこだわるんだなって思ったらおかしくて。  一族の名前だろうと何だろうと、私の周りにいる鳥飼(とりかい)さんは眼前の彼だけなんだけどな?  私がそれ想定であなたを指して「鳥飼さん」って呼ぶんじゃ、ダメなの?  ああ、だからか。  だからこの人は私の下の名前をあんなに執拗に知りたがったのね。  自分に対してそう思うってことは、多分他者に対してもそう。  私は「向井」って呼ばれるんで一向に構わないのに、変な人。  そう思ったら急にストンとあれこれが腑に落ちて、パズルのピースが全部揃ったみたいな爽快感を覚えた。  曲がったことが嫌いな私は、こんなふうに理由付けが得られると妙に安心してしまう。  自分でも難儀な性格だなって思うけど、それが私なんだから仕方ない。  私の目の前にいる彼同様、私も見た目に見合った性格の、四角四面な面白味のない女です。
/615ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1547人が本棚に入れています
本棚に追加