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家にグランドピアノがあることにも驚いたけれど、それを奏芽さんが自在に演奏する姿にも私、すごくすごく驚かされた。
試しに私が「ワムのラストクリスマスが聴きたいです」って言った時も、奏芽さん、何でもないことみたいに「OK」って言って、楽譜もなしに弾いてくれて。
彼、どうやら聴いた音をピアノで再現できちゃうみたいなんだけど、音楽に疎い私にはそう言うことが出来てしまえる奏芽さんがただただすごいとしか思えなくて。
「母親がな、ピアノの先生だったから」
小さい頃からピアノには慣れ親しんでいたし、見た目とのギャップがいいのか、弾くと女の子たちに好評でさ、俺もつい夢中になっちまって……とニヤリと笑うの。
そんな奏芽さんに、私はどうしようもなくイライラしてしまった。
「イヤです……」
その気持ちを黙っていられなくて、うつむいたまま小さくつぶやいた声は、ピアノの音に掻き消されて彼には届かないはずだったのに。
不意に曲の途中、音の余韻を残して鳴り止んだ演奏にふと顔を上げたら、
「何がイヤなんだよ? ハッキリ言えよ」
ってあごをすくい上げるようにして上向かされた。
私はまさか奏芽さんに聞こえてしまうなんて思っていなかったから、驚いてソワソワとしてしまって。
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