大嫌いな常連客

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「あ、あのっ、お願いなのでっ、そういうのは私以外の人にっ!」  何だかにわかに恥ずかしくなって、一生懸命奏芽(かなめ)さんの腕を振り解こうとしたら「あれからあいつに会ったのか?」って耳元でささやかれる。 「かっ、奏芽さんには……関係ありませんっ」  あの夜以来、のぶちゃんとも奏芽さん同様気まずくて、会えてないし連絡も取ってない。でもそんなの、バカ正直に言わなくてもいいよね?  のぶちゃん。お互い地元にいた頃は、同じアパートに住んでいたこともあって、母子家庭で寂しかった私の勉強を見にきてくれたりしていたけれど、のぶちゃんが就職を機にこっちに出て……私が彼を追うようにのぶちゃんの勤め先近くの大学に進学をして……。  引越しをした3月末に、「人手がいるだろ?」って手伝いにきてくれたけれど……あれから2ヶ月。  よく考えたら私たち、1度も会っていなかったの。  それなのに奏芽さんのせいで無理に約束を取り付けて会ったりしたから……だからのぶちゃんともギクシャクしてしまったんじゃない。  責任転嫁だと分かっていてもそんな風に思ってしまう。  早く離して欲しいのに、何だかうまく言葉がつむげなくて、息が苦しい。  あ、そうだ。きっと首に腕を回されているからね!? 「かっ、奏芽(かなめ)さんがいつもお付き合いしている女性たちはどうか知らないですけどっ、わ、私、こういうの、ホント苦手なのでっ。っていうかむしろすごくイヤなのでっ……。は、離してくださいっ!」  言いながら、思い切って首元に回された手をギュってつねってみたけれど反応なし。  もしかして、もっと強くつままないと……ダメ?  でもそれはちょっとさすがに。  その躊躇(ためら)いを見透かされているようで、何だかとっても悔しいの。 ***  ややして、奏芽さんはどうしたらいいの!?とモジモジ身じろぐ私に満足したみたいに小さくフッと笑うと、 「会えてねぇんだな」  ってつぶやいた。なんなの、エスパーかなにかですか!? 「ところで凜子(りんこ)。バス、間に合わなかったんじゃね?」  って、如何にももののついでみたいに言ってきて。  言われた瞬間、私が困ってるの、やっぱり知ってたんじゃないって思って、すごく腹が立ったの。  っていうか……だったら今の私がこんなことをしている場合じゃないっていうのも、分かるよね?
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