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と、すぐに何も言わずにくるりと向きを変えて走り去ってしまって。
え? 何だったの? もしかして……違った?
覚えてますか?と問いかけた相手から、見当外れなことを言われたら悲しいよね。
そう思い至った途端、何だか申し訳ない気持ちになって、私は走り去っていくその人の背中を茫然と見送った。
きっとシャイであろうその人が、勇気を振り絞って声をかけてくれたんだろうに。
私、酷いことしちゃったかな。
***
ゴミの処理をして手洗いを済ませて店内に戻ると、谷本くんが訝しげな顔で私を見つめてきた。
「あの……?」
その視線が気になって、そわそわと見つめ返したら、「いや、向井さんが気にしてないならいいんだけど……」って前置きをされてから、
「さっき誰かに話しかけられてなかった?」
言われて、「わ、目ざといな」って感心してしまった。
「はい、“僕のこと覚えてますか?”って聞かれて……。よく立ち読みしてるお客さんに似てたのでその方かなって思ってそうお返事をしたら……違ってたみたいです。多分気分を害されてしまったんです。走り去ってしまわれたので」
眉根を寄せてそう続けたら「……気分を?」って問い返された。
「はい」
私の返事に、谷本くんが眉根を寄せて考え込むの。
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