転ばぬ先の杖?

5/10
前へ
/615ページ
次へ
 四季(しき)ちゃんのスマホから保留音が微かに聴こえてきて、その音にハッとして「四季ちゃんっ!」って声を出した時には、奏芽(かなめ)さんが電話口に出てきた後だった。  あーん、奏芽さん、ごめんなさいっ。  お仕事中に大した用じゃないのに電話しちゃうとか!  あまりに非常識なことをしてしまった気がして、泣きそうになりながら四季ちゃんを見詰めたら、「凜子(りんこ)ちゃん、自分の口でちゃんと話して!」っていきなりスマホを渡されてしまった。  あーん、どうしよう! 私の名前でかけちゃってるし、かわったらもう私が自分の意思で電話したとしかっ。  心の準備もままならないままに、恐る恐る手渡された電話を耳に当てたら、『凜子! 大丈夫なのかっ!?』って、切羽詰まった様子の奏芽さんの声が鼓膜を貫いた。 「あ、あの……だ、大丈夫です……。それより……お、お仕事の邪魔をしてしまってすみませんっ。すぐ切るのでお手隙になられたらメールを見て頂きた……」  申し訳なさに消え入りそうになりながら、後からで構わないという旨を告げようとしたら、『とりあえず話聞かせろ。このまま突き放されても仕事になるかよ』って低い声で(いさ)められた。  そ、それはそうです、よね。私が奏芽さんでも同じこと言うと思います。  奏芽さんの言葉があまりにももっともで、私はグッと言葉に詰まる。 『凜子……』  そんな私に、再度話の先を促すように奏芽さんの声がかかった。
/615ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1547人が本棚に入れています
本棚に追加