大嫌いな常連客

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「そうよ! だから……離してっ! 私、急いで大学(がっこう)に行かないといけないのっ!」  再度奏芽(かなめ)さんの腕からすり抜けようともがき始めた私に、奏芽さんが「どうやって?」って静かに問いかけてきて、私はグッと言葉に詰まる。 「まさか走って行こうってわけじゃねぇだろ?」  畳み掛けるように言われたセリフに、ますます言葉を失って黙り込んだ。 「なぁ、俺が車で連れてってやろうか?」  奏芽さんがまるで満を()したみたいにそう言って私の耳元でクスッと笑った時、絶対確信犯だって思ったの。  だから――。  本当は喉から手が出そうなくらい願ってもない申し出だったけれど、フルフルと首を横に振って彼を拒絶した。 「かっ、奏芽さんの車に乗ったら……真っ直ぐ大学にたどり着ける気がしないので……っ!」  言って、素早くしゃがみ込んで彼の腕をまんまとすり抜けると、私は再度捕まったりしないで済むように、くるりと向きを変えて彼を視界に収めた。  一歩、二歩と後退りながら彼から距離を取りつつ、奏芽さんの出方を窺う。  奏芽さんは心底楽しそうにニヤリと笑うと、私が下がった分以上の距離を詰めてきて。 「さすが俺が見込んだ女だな、凜子(りんこ)! そういうお堅いところ、正直たまんねぇわ。……けど、まぁそうだなぁ。だったら――」  そこでスマホを取り出すと、何やら操作をしてから、「タクシー呼んでやったから」って私に画面を見せてくる。
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