隣、いい?

3/6
前へ
/615ページ
次へ
 その視線と目があって、思わず条件反射で小声でごめんなさいと謝って会釈したら、意外にもニコッと微笑み返された。  良かった、気分を害されてはいないみたい?  そう思ってホッとしていたら、その人がおもむろに立ち上がって。  「なんだろう?」と思っていたら「隣、いい?」って聞かれたの。  あまりに想定外のことに、良いとも悪いとも答えられずにいるうちに、さっさとすぐ横に腰を下ろされてしまった。  こんなに沢山席が余っているのに、わざわざすぐ隣とか……ものすごく落ち着かない。 「あ、あの……せめてひとつ分……」  席を空けて欲しいと言おうとしたら、「実は僕、教科書(テキスト)忘れちゃって。もし良かったら見せてもらえない?」って畳み掛けられてしまった。  教科書を持って来ていないとか……。  私だったら教授に見つかりたくないから、そんな時は絶対にもっともっと――それこそ一番後ろの席に着くかもって思って。  そう考えたら、わざわざ彼が2列目を陣取っていることに少し違和感を覚えてしまう。 「あの……教科書持ってないのって、教授、気づいたら良い気持ちしないと思うので……もっと後ろの席に行かれた方が……」  良いんじゃないですか?って言おうとしたら「じゃ、後ろさがろっか」っていきなり手を握られて、言いようのない嫌悪感に襲われた。
/615ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1547人が本棚に入れています
本棚に追加