隣、いい?

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 私は太ももに載せた膝掛けをギュッと握ると、大好きな奏芽(かなめ)さんの顔を思い出しながら、気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと息を吐き出した。  それから、頑張って顔を上げると、 「……ごめんなさい。私、本当にこういうの、すごく苦手なんです。なので……ほ、他の方を当たって下さい」  男性の顔を真っ直ぐに見つめて、そう言ったの。  あえて、「当たっていただけないですか?」という婉曲的な表現は避けたけど……私の想い、通じた……かな。  彼は私の言葉に小さく息を飲むと、何故かとても意外だという顔をして……。  確かに、奏芽さんや四季(しき)ちゃんに出会う前の私なら、ここまで強く食い下がられたら押し切られてしまっていたかもしれない。でも今は違うから。  そこまで思って、でもどうして初対面なはずなのに、そんな顔をされてしまったんだろう?って不思議に思う。  今のって……まるで私のことを知っていて、私がどう出るか予測していたのに予想外の言い方に裏切られて驚いたって顔だった……?  でも、そんな表情をしたのも束の間。  次の瞬間にはわざとらしいくらいにニコッと笑って、「分かった。無理言ってごめんね」って引き下がってくれて。  私は一応にホッとしたの。  荷物をまとめて立ち上がった男性に、もう一度小さく頭を下げたら、去り際にふいっと耳元に唇を寄せられて、「ね、」ってささやかれて――。  私はあまりのことに、思わず耳を押さえて立ち上がった。
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