知らないけど知ってる人

13/17
前へ
/615ページ
次へ
「あ、四季(しき)ちゃんっ!」  私はまだ、四季ちゃんにちゃんとお礼を言えていない。 「有難う!」  手を口に当てて、大きめの声で言ったら、立ち止まった四季ちゃんが、こちらを振り返って目をまん丸にした。 「凜子(りんこ)ちゃんが大きな声出すの、私、初めて見たかも!」  ニコッと笑われて、私はハッとして真っ赤になる。  言われてみれば、その通りだった。  だって私、いつも目立たないようにして暮らしてきたから。自分でも、自分の変化に少し驚いてしまった。 *** 「お邪魔します」  音芽(おとめ)さんに助手席に乗るように促されて。 「あ、あの……」  でもそこは、何だか音芽さんのための場所な気がして、私は思わず躊躇(ためら)ってしまう。  私が音芽さんの立場だとして、好きな人の横――助手席を他の女性に譲りたいだろうか?って考えたら少し嫌だなとか思ってしまって。  音芽さんは嫌じゃない……のかな?  それとも私が嫉妬深いだけ? 「はい?」  ソワソワする私の顔を、キョトンとした顔で音芽さんが見つめてくる。
/615ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1547人が本棚に入れています
本棚に追加