知らないけど知ってる人

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「わ、私、助手席で大丈夫でしょうか?」  思い切って聞いたら「え?」と聞き返されてしまって。意識しすぎ?とにわかに恥ずかしくなる。 「ああ! 大丈夫! 気にしないで?」  言ってから、「温和(はるまさ)、いいよね?」と運転席のご主人に言い聞かせるような口調。  これは……既婚者の余裕というやつかしら。  なんて思った私だったけど、ふと視線を転じた先、ご主人の雰囲気に「おや?」と思う。  もしかして……隣に好きな人以外を座らせたくないのは音芽(おとめ)さんじゃなくて……。  そう思い至ってじっと運転席のスーツ姿の男性――奏芽(かなめ)さんとは別の意味で、正統派な感じのハンサムな男性だ――を見つめた。  彼、絶対めちゃくちゃムスッとしている、よね。  と、私の視線に気づいたご主人――温和(はるまさ)さん?――が、こちらを見るなり嘘みたいにニコッと笑った。  年齢(とし)は確か、奏芽(かなめ)さんと……同い年、だったよね?  “温和(はるまさ)”だから奏芽さん、「ハル」って呼んでおられるのねって思いつつ。 「奏芽の彼女って言うから、どんな女性が来るのかと構えてたんですけど。で安心しました。初めまして。奏芽の幼馴染みの霧島(きりしま)温和(はるまさ)といいます。に隣に座っていただけるとか、です」  何だかわざとらしいくらい褒め殺された気がする。 「初めまして。今日はわざわざすみません。その……よ、よろしくお願いします」  言いながら、そっと音芽さんを窺い見たら、ムッとした表情をしてて。  ひゃー、これ、音芽さん、絶対怒ってるっ。
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