*ようこそ我が家へ

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「僕の名前はね、金里(かねさと)明真(あすま)。向井さんの下の名前は――“凜子(りんこ)”、だよね?」  名前を言われた途端ゾクリと悪寒が走って身体を跳ねさせたら、「驚いた? 君のお友達がコンビニで他の店員と話してるのを聞いたんだ」ってククッと笑うの。  それから私を抱いたままリビングと思しき部屋を抜けると、その先にある部屋の扉を開けた。  部屋は真ん中にパイプベッドがポツンと1台あるきり。  壁面に一箇所だけある窓には鉄格子がはまっているみたいで、曇りガラスの向こうに縦線模様がすかし見えた。 「業者にはね、認知症の祖母の徘徊を防止したいからって話して、窓は全て内側からは鍵なしには開けられないように施工してもらったんだ。だからね、そこの窓はキミには開けられないし、擦りガラスになってるから外の様子も見られない。薄っすら見えると思うけど、もし開けられたとしても鉄格子が嵌めてあるからそこから出るのも無理だからね。もちろん玄関扉も僕以外には開けられない仕様だよ」  そこで私をベッドの上に下ろしてふっと笑うと、 「ごめんね。そういう諸々の手配に時間がかかっちゃって。なかなかに会いにいけなかったんだ」  言って、「淋しかった?」と耳元に唇を寄せられて、私は思わずベッドを這いずるようにして“金里”と名乗った男から距離をとった。 「あ、そうそう。――用心のためにも付けさせてもらうね」
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