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私が唯一その人の色に染められたいと願う奏芽さんだって、私の服にいちいち口出ししたりしてこない。
そこは私の尊厳を踏みにじらないでいてくれる奏芽さんなりの優しさなんだと、私は今になって思い知らされた。
寒がりな私に、ってクリスマスにコートを買ってくれたときだって、「好きなの選べよ。俺、凜子がどういうのが好きか知りてぇし、一緒に見て回りたい」ってお店に連れて行ってくれて、私の意見を聞きながら好みのものを選ばせてくれた。
今、着ているこれがそのときに奏芽さんにプレゼントしていただいたファー付きのモッズコートだと思い出した私は、少しだけそこから勇気をもらえた気がして。
奏芽さん、私、絶対あなたの元へ戻ります――。だから……無事再会出来たら、ギュッと抱きしめて。
そう思って、コートの合わせ目をしっかり合わせる。
***
「あ、ごめん。僕の手、冷たかった? 凜は寒がりだもんね」
この人には私が彼のことを嫌がっているのだと言う感覚は微塵もないのかもしれない。
そう思ったら、ただただ気持ち悪かった。
その思いを顔に出さないようにうつむいて唇を噛み締めたら、
「あー、部屋も寒いよね。気づかなくてごめんね。いま、暖房入れるから。――暖かくなったらさ、今着ている服、全部脱いでもらわないといけないし」
さらりと恐ろしいことを言われた気がして、思わず男の顔を見たら、
「ん~? 何驚いてるの? 大好きな女の子を目の前にして襲わないとか。男として有り得ないでしょ?」
ってあごをすくい上げられた。
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