第一印象は最悪で

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 でも。 「あのさぁ、相川(あいかわ)さん、俺、そういうの好きじゃないって言わなかった?」  意外なことに彼の矛先が向いたのは私ではなく、シルバーアッシュの彼女――相川さん?――の方で。  相川さんが自分に絡めた腕をスッとほどくと、冷ややかに彼女を見つめる。 「俺、たくさんカゴに入れてるじゃん? この子は一生懸命それを処理してくれてるわけ。別に彼女がトロイとかそういうんじゃねぇの、見たら分かんだろ」  言われた相川さんは、真っ赤になって震えて。  あー、これ、まずいかも。  って思った時には遅かった。  振り上げられた手が見えて、彼、頬を張られちゃうんだ!  そう思って思わずギュッと目をつぶった私は、けれど待てど暮らせど予期したような音はしてこなくて。  恐る恐る目を開けると、彼に振り上げた手を握られて立ち尽くす彼女の姿があった。 「俺が悪いことした時はいくらでも叩かせてやるよ。けどさ、今回は違うから。――悪いな」  鳥飼(とりかい)さんがニコッと笑って突き放すように相川さんの手を離すと、彼女はフルフルと震えながら彼を睨んで、「帰る!」と吐き捨てて鳥飼さんを残してお店を出て行ってしまった。  店内には甘ったるい彼女の香りだけが残っていて。  私は未だにどうしたらいいのか分からなくて立ち尽くす。
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