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「な、凜子、髪、ほどいても構わねぇ?」
ギュッと私を抱きしめたまま。
奏芽さんがさっきからずっともてあそんでいたおさげの毛先をヒョイとつまみ上げるようにして私にそう問いかけてくる。
そっと窺うように、毛束を留めた髪ゴムに触れる奏芽さんを見て、いつだったか思いっきり髪の毛を引っ張られてゴムをむしり取られてしまったのを思い出す。
あの時はあんなに強引だったのに、今の奏芽さんは私の身体の隅々まで奪い尽くしたくせに……逆に細部まで私に気を遣ってくれているのが分かる。
私の嫌がること、怖がること、尊厳を踏みにじるようなことはしないって分かる。
奏芽さんにならば何をされても許せると思うのに、私がそれを許容できる唯一の人である奏芽さんは、私のことを誰よりも大切にしてくださるの。
それがくすぐったく思えるほど嬉しくて。
奏芽さんのことが切ないくらいに愛しくてたまらなくなる。
私にとって、髪の毛を人前でほどくことは服を脱ぐのと同じぐらい恥ずかしいことで。
幼いころから見苦しい姿だから人に見せてはいけないと刷り込まれてきた、束ねていない下ろし髪を大好きな奏芽さんに見せてしまうことに抵抗がないと言ったら嘘になる。
でも……奏芽さんには裸だって見られているのだから、髪をほどいた姿を見られたって平気。
きっと奏芽さんならば、私のみっともない姿だって受け入れてくださる気がするから。
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