貴方のものだと思えるから

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*** 「お疲れ様です」  皆さんの業務の邪魔にならないよう、診察室や処置室が並ぶ空間に顔を覗けてそっと挨拶をしてから、いつも仕事をしている定位置――休憩室の机に向かう。  そこから一応「院内の休憩室で待っています」と奏芽(かなめ)さんにメッセージを入れて。  私は机の引き出しから折り紙を取り出した。  バイトに入っていない時も、奏芽(かなめ)さんをここで待たせていただく間は少し作業を進めるのが常。  何もしないでぼんやりしているより、何かしながらの方が時間が経つのが早いから。  院長先生である奏芽さんのお父さまと、若先生である奏芽さんの2人体制で診察が行われている鳥飼(とりかい)小児科医院は、診察後に子供達に渡されるご褒美――折り紙のコマやぴょんぴょんカエルなど――がすぐになくなってしまう。  折り紙のおもちゃが間に合わない時は出入りの製薬会社(ぎょうしゃ)などからもらえるシールを渡すことも多かったらしいのだけれど、凜子(わたし)が通うようになってからは手作りのおもちゃが尽きることが殆どなくなってすごく助かってる、って奏芽さんが話してくれた。  それだけでも私、ここにいる存在意義がある気がして。  席についてせっせと折り紙――今日は女の子向けの指輪と、男の子向けの腕時計――作りに勤しんでいたら、休憩室のドアがノックされた。
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