Epilogue

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 私は結局、大学は方向転換などすることなく文学部を卒業して、そのままゆるゆるとバイトしていた時の延長みたく奏芽(かなめ)さんの病院をお手伝いさせていただいているだけだったから。  入籍後、少し変わったことがあるとすれば、立ち位置が1バイトから経営陣の身内に移行して、スタッフの皆さんや業者さんから「向井さん」ではなく「凜子(りんこ)さん」もしくは「若奥様」、「鳥飼(とりかい)さん」と呼ばれるようになったことくらい。  そのお仕事にしたって入籍後ほどなくして赤ちゃんがお腹にきてくれてからは、つわりや貧血が酷くてペースダウンしてしまったし。  お腹に赤ちゃんが宿ってくれた時、産むならそんな彼女のいる病院がいいと奏芽さんに話して、猛反対された。  もっとも奏芽さんの「ダメ」は、奥様に対してではなく、先輩である美形のご主人に対してだったのだけれど。  産科医とはいえ、男性に私を見せるのは嫌だと言われて、ふたりで女医さんのいる産婦人科を探したら、何とくだんの病院がヒットして。  主治医さんを若先生やそのお父様や他の男性医師ではなく、ただひとりいらっしゃることが判明した女医さんにするという条件で、私は何とかここ――御神本(みきもと)レディースクリニックに来ることを許されたの。
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