Epilogue

17/18
前へ
/615ページ
次へ
「よろしくね、拓斗(タクト)」  2人でたくさんたくさん挙げた候補の中から、最終的に選んだのが指揮(タクト)を響きに持つ、拓斗(タクト)という名前。  どんな困難にも負けず、自分で道を切り拓いていって欲しい、広い心を持った大きな男の子に育って欲しい。  そんな願いを込めて付けた名前。  パパ似で美形のこの子に、その名前はとても似合っている気がした。 「拓斗、退院したら俺がお前のこと、診てやるからな」  奏芽(かなめ)さんがパパとお医者様両方の顔をしてそうおっしゃって。  慣れた手つきでその頬に触れる。  私はその優しい声音にホッとしてから、 「そういえば奏芽さん……今日もお仕事なんじゃ……」  私はこのまま赤ちゃんとしばらく入院だけど、奏芽さんは今日も普通に病院で診察があるはずで。  徹夜になってしまったことを今更のように心配したら、ニヤリと笑われた。 「俺、病院(しごと)終わるまで来られねぇけど、2人で待っていられるよな?」  何だかその言葉に、これからずっと続いていく未来の1コマを垣間見た気がして、私はじんわりと温かな気持ちになる。 「奏芽さん、行ってらっしゃい」  分娩台の上。  何だか非日常と日常が入り乱れたような変な状態だけど、それもまたお医者さんの妻らしくていいかもしれない、って思ってしまった。 「行って来ます」  御神本(みきもと)さんと杉本先生に「妻と息子のこと、頼みます」と軽く頭を下げて分娩室を出て行く大好きな奏芽さん(おっと)の背中を見送りながら、そんな風に思った。    END(2020/06/06-2021/02/21)
/615ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1545人が本棚に入れています
本棚に追加