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「よろしくね、拓斗」
2人でたくさんたくさん挙げた候補の中から、最終的に選んだのが指揮を響きに持つ、拓斗という名前。
どんな困難にも負けず、自分で道を切り拓いていって欲しい、広い心を持った大きな男の子に育って欲しい。
そんな願いを込めて付けた名前。
パパ似で美形のこの子に、その名前はとても似合っている気がした。
「拓斗、退院したら俺がお前のこと、診てやるからな」
奏芽さんがパパとお医者様両方の顔をしてそうおっしゃって。
慣れた手つきでその頬に触れる。
私はその優しい声音にホッとしてから、
「そういえば奏芽さん……今日もお仕事なんじゃ……」
私はこのまま赤ちゃんとしばらく入院だけど、奏芽さんは今日も普通に病院で診察があるはずで。
徹夜になってしまったことを今更のように心配したら、ニヤリと笑われた。
「俺、病院終わるまで来られねぇけど、2人で待っていられるよな?」
何だかその言葉に、これからずっと続いていく未来の1コマを垣間見た気がして、私はじんわりと温かな気持ちになる。
「奏芽さん、行ってらっしゃい」
分娩台の上。
何だか非日常と日常が入り乱れたような変な状態だけど、それもまたお医者さんの妻らしくていいかもしれない、って思ってしまった。
「行って来ます」
御神本さんと杉本先生に「妻と息子のこと、頼みます」と軽く頭を下げて分娩室を出て行く大好きな奏芽さんの背中を見送りながら、そんな風に思った。
END(2020/06/06-2021/02/21)
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