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「凜子、読者さんがさ、俺が診察してる姿を想像できないって言うんだ。だから……」
奏芽さんがそんなことを言ってニヤリと笑った。
それを見た私は、嫌な予感しかしない。
「だから……なんですか?」
少し及び腰で奏芽さんから距離を取りながら言ったら、下がった以上の歩幅を削られて、奏芽さんにおさげをギュッと握られる。
「は、離してくださっ……」
いつぞやに強く引いたらヘアゴムが取れてしまったのを思い出して、躊躇い気味の私に奏芽さんが嬉しそうに目を眇めた。
「だから、さ。病院で――お医者さんごっこしようぜ?」
はっ!?
一瞬彼が何を言ったのか分からなくて、私はおさげを掴まれたままフリーズする。
「な、何て……言いました?」
もう一度恐る恐る問い返したら「だから、お医者さんごっこ!」って……嘘でしょう!?
「おかしいと思ったんですっ。用があって日曜だけど病院に来てるからそこまで来て、だなんて! か、奏芽さん、れっきとしたお医者さまなんですよ、ね? ここで連日、ちゃんと診察業務こなしてるんですよねっ?」
ソワソワしながら奏芽さんを見つめたら「当然。毎日子供たち相手に腕を奮いまくってるぜ?」とか。
「だったら……っ! お医者さんごっこなんて必要なくないですか?」
掴まれたおさげを気持ち自分の方に手繰り寄せながら言ったら「でもさ、診察風景見せなきゃ納得してもらえねぇだろ」って。
「しっ、診察時間に読者様に見に来て頂けばいいじゃないですかっ!」
言ったら、「見せたいのは山々なんだけどさぁー、今日は日曜で休診日なんだもん。仕方ねえだろ」とか……別に今日にこだわる必要なくないですか?
話している間にもジリジリと奏芽さんに距離を詰められて、私はその分だけそろりそろりと後ずさる。
そうして、とうとう。
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