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「わ、私っ、もう大人ですっ。小児じゃありません!」
今度こそ彼の手からおさげを奪取すると、奏芽さんを押し除けるようにして診察台から立ち上がった。
自分でも分かる。
今、私、絶対に耳まで真っ赤になってる……。
「……だな」
まだ何かされるんじゃないかと身構える私に、奏芽さんが拍子抜けするぐらい毒気のない笑みを浮かべた。
「凜子はどっからどう見てももう子供じゃねぇんだわ。――だから俺、困ってんじゃん? 正直凜子のこと、奪い尽くしたいし、抱きつぶしたくてたまらないって思ってんだよ。もちろん今も、な? ――けど……」
服越し、聴診器を私の胸の上部に当てて、奏芽さんが言うの。
「凜子がさ、二十歳になるまで俺、我慢するつもりだから。だからさ、それまではもう少し……子供っぽく振る舞ってもらえねぇかな?」
それこそお医者さんごっこしたって何ともないぐらいに子供っぽく。
「こんな風に胸をドキドキ言わせて――俺を誘惑しないでもらえるとめちゃくちゃ助かります」
わざわざ口調をいつもと変えてお願いしてくるとか……本当ズルイ。
どうやったら子供っぽく見えて、どうやったら彼を誘惑する所作になるのか、私には全く分からないのに。
「なぁ凜子。二十歳過ぎたら俺に隅々まで診察させてくれ、な? 他所の内科とか行くなよ?」
奏芽さんに再度おさげを掴まれて、グイッと引っ張られた私は、唇と唇が触れるだけの軽いキスをされた。
「――それまでは。キスも子供のキス、な?」
彼の言う、子供のキスでもこんなにドキドキしてしまうのに。
ねぇ、奏芽さん、分かってる?
2020/07/21 END
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