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バレンタインデー。
凜子が手作りチョコを手に、俺のマンションに遊びにきてくれた。
寒がりの凜子に合わせて、高めの温度設定で暖房がきいた部屋の中。
持ってきてもらったチョコレートを一欠片ずつ、お互いに「あーん」する要領で食べさせあって。
残りは溶けないようにって、冷蔵庫に仕舞ったんだ。
味覚的にも全体の雰囲気的にも、物凄く甘々な時間を過ごしているはずだったんだけど――。
***
ソファに横並びに座って、凜子の身体がすぐそばにあると意識した途端、下腹部が反応しそうになって。
俺は慌てて彼女のそばを離れようと立ち上がった。
が、それを察した凜子が、俺の手をギュッと握ってこちらを見上げてきて。
「奏芽さん……」
いつもより幾分色めいて見える潤んだ瞳で見つめられて、心臓がドクン!と大きく脈打ったのが分かった。
やばい、これ。――マジで。
ああ、そう言や、チョコレートって、媚薬の一種なんだっけ?
これは、そのせいか?
「なぁ……凜子。頼むからさ。手、離してくんね?」
上から見下ろしたら、凜子の胸元、――いつもならタートルネックとか着てるはずなのに何故か今日はVネック!――に目がいって。
あまつさえそこから下着がチラリと見えたりしたもんだから、俺は慌てて視線をふいっとそらせるようにそっぽを向いた。
「……どうして……逃げるんですか? ――私、……そんなに魅力ないですか?」
大きな瞳で懸命に俺を見上げてくる歳の離れた彼女が凶悪に可愛くて、俺は思わず言葉に詰まる。
「……んだよ、それ。俺、凜子のこと魅力ないとか言ったこと、ただの一度だってねぇだろうが」
いつもなら曖昧に濁した言葉でも渋々ながらに納得してくれる凜子なのに……。
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