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「奏芽さん、今……嫌いって……言っ……」
ややして、凜子がうつむいて俺の言葉を復唱して。
よせばいいのに俺は「ああ、嫌いだって言った」とか、余計なことを言って彼女に追い討ちを掛けてしまう。
途端、凜子が俺の顔をキッ!も睨みつけてきて――。
こちらに視線を向けてきた瞬間、キラリと光るものが舞い飛んだように見えたのは……気のせいだろうか?
いや、けど……今のって……。やっぱ……涙?
そう思い至って確認しようとしたら――。
「私も今日の奏芽さん、大っ嫌いです!」
凜子がそう叫んで走り去ってしまう。
「あ、オイっ!」
呼びかけて手を伸ばしたけれど、タッチの差で届かなかった。
バン!と言う重苦しい音を立てて防音室の扉が閉ざされる。
なぁ、凜子。何でよりによって防音室なんだよ……。
こういう時、理想は扉越しに謝って、少しずつ距離を詰めることなんだけど。
さすがに籠られたのが防音室じゃ、そういうわけにもいかなくて。
俺は力なく溜め息をひとつ。
所在なくソファ横に立ちっぱなしだった身体に気合いを入れて、天の岩戸ならぬ、防音室の防音ドアの前に立った。
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