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会計を済ませて美容室を後にしようとしたら、
「……おにい、ちゃん?」
まるで知らない人間に声をかけるみたいなぎこちなさで呼び止められた。
俺のことを兄と呼ぶ人間は、母親を除けばこの世に1人しかいない。
2つ年の離れた妹の音芽だ。
「やっぱりお兄ちゃんだっ!」
おう、お前も美容室か……と続けようと振り返ったら、頓狂な声を上げられて腕を掴まれた。
「ど、ど、ど、どうしちゃったの、それっ!」
って言葉とともに。
「痛ぇよ」
ちっこいくせに馬鹿力か!
思いながら睨みつけたら、慌てたように手を離して「ごめんっ」とつぶやく。
でも我慢できないみたいに大きな目で俺をじっと見上げてくるんだ。
ああ、この距離感。
身長が一緒なだけあって凜子と一緒だな。
なんて関係ないことを思いつつ、妹でもこの反応となると、凜子は……と心をざわつかせずにはいられない。
「イメチェンだよ、イメチェン」
言ったら、音芽が瞳を見開いて黙り込んだ。
「凜子さん絡み?」
ややしてポツンと落とされた言葉に、俺は「まぁな」と、さも何でもないことみたいに返した。
高校生の頃からだからかれこれ20年近くになるか。
その間ずっと、俺は長めの髪に金髪、を通してきた。
それを、つい今しがたここで、黒髪短髪にしたのだ。
凜子の母親に会うために。
就職活動の時ですら、俺は長髪・金髪を貫いた。
それを知る音芽が、こんな風に驚くのは無理もないか。
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