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そう思う端から髪をグイッと上に引っ張り上げられて、「そんな顔されたら、もっと泣かせてみたくなるじゃねぇか」って耳元でささやかれて、ゾクッとした。
「離してっ!」
鳥飼さんの様子がいつもと違うのが無性に怖くなって、少し強引に彼の手から髪の毛をむしり取ったら、あろうことかヘアゴムが外れてしまった。
ダメっ。
髪が解けたところなんて、他人に見せるものじゃない!
幼い頃からそう言い聞かされて育って来た私は、押さえがなくなってしまった三つ編みが、それ以上崩れてしまわないように慌てて握りしめる。
そのまま鳥飼さんから数歩距離をとると、くるりと向きを変えて全速力で駆け出した。
何あれ、何あれ、わけ分かんない! あんなことしてくる男なんて、怖いだけだよ!?
ホント、嫌い、嫌い、大嫌いっ!
だからもう、これ以上追いかけてこないで!
そう、願いながら。
***
幸いあのあと鳥飼さんは私を追ってこなかった。
それでも家がバレるのは本意ではないので、大事をとってわざわざ少し回り道をしてから、アパートに戻る。
扉を閉めて後ろ手に施錠したと同時に、ホッとしてドア横の壁にもたれて大きく息を吐く。
一生懸命走って乱れた呼吸を整えながら、ずるずるとくず折れるようにその場にしゃがみ込んだ。
怖かった……。
あの時の鳥飼さん、本当に怖かった……。
何がそんなにあの人の逆鱗に触れてしまったのかは分からないけれど、あんなゾクッとくる冷たい視線で見下ろされたのは初めてだったから。
思い出しただけで身体が震えてきて、私は頭を振ってその記憶を無理矢理外にはじき出す。
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