スタ特⑧『あれからのふたり』

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*** 「あ、あの……奏芽(かなめ)さん」  お風呂上がり。  ほこほこと湯気の立ち昇る身体のまま、控えめに脱衣所からリビングに顔を覗ける。  タオルドライしてシアバター100%の保湿クリームでケアした身体を、シンプルな無地のパジャマで包んで。 「おいで」  そんな私に、いつものように奏芽さんが、リビングでドライヤー片手にソファをポンポンと叩く。  ホテルで、奏芽さんに髪を下ろしている姿を見せて以来、お風呂上がり後は、こんな風に髪を下ろしたまま出てくるようになった。  そうして、奏芽さんはそれが当然の権利だとでも言うように「俺が凜子(りんこ)の髪、乾かしてやるな」と言って、連日タオルドライ後の髪にドライヤーを当ててくださるのが日課になっている。  ばかりか、先日私の長い髪が(いた)まないようにと、とあるメーカーの高価なドライヤーに買い替えて下さって。 「ドライヤー、まだ使えるのにもったいないですっ」  と恐縮した私に、「俺も使うからいいんだよ。俺の頭も(いたわ)んねぇと禿げたら大変だろ?」ってニヤリと笑うの。  でも、その時の「俺も使」からして、すでにご自分に対して、ではなく私に対して、だったんじゃないかしら、と思い知らされていたりします。
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