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家に入ったと同時に知らず手を離してしまっていた片側のおさげが、その振動でゆるゆると解けて顔を半分隠した。
全速力で走ってきた身体は心臓が痛いくらいに血液を送り出していて、肌もじっとりと汗ばんでいる。
そのせいで顔や首筋にゆるふわウェーブのかかった髪の毛がまとわりついて、すごく不快で。
「シャワー……」
のぶちゃんに食事に誘われた時、ルンルン気分で思い浮かべた身支度のことをふと思い出す。
ノロノロと立ち上がると、一旦左手キッチンを抜けた先の洋間に荷物を置きに行った。
それからキッチンの向かい側――玄関から真っ直ぐの先にある脱衣所に入ると、扉を閉めて鏡の前に立つ。
鏡の中には、片側だけセットが乱れて顔や首筋に髪の毛をまとわりつかせた疲れた顔の私がいた。
「あー、もう、ダメダメ!」
こんな顔でのぶちゃんに会いたくないっ!
気持ちを切り替えるように勢いよく残った側のおさげも解くとわざとわしゃわしゃと髪の毛をかき乱して編み込まれた毛束を崩した。
貧乏パーマっていうのかな。
ゆるふわウェーブの下ろし髪の自分を見て、何となく肩の力が抜ける。
私にとってのおさげは、ある種の戦闘装束の一端みたいなもので。
外に出る時は髪を編むことで虚勢が張れる。
髪を結んでいない私はただの弱々しい女の子だ。
ほぉっとひとつ溜め息をつくと、服を脱ぎ捨てて裸になった。
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