■邪魔してごめんなさい/気まぐれ書き下ろし短編

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 溜め息まじり。ソファに放り出したカバンをふと見ると、スマートフォンが顔を覗かせていて。  私はそれに手を伸ばすと、無意識に電話帳から奏芽(かなめ)さんの番号を呼び出していた。  指のすぐ下に通話ボタンがあって、ほんの少し動かしただけで、奏芽さんに電話が繋がる。  そう思ったら、指先がふるふると震えて、それを「えいっ!」と押してしまいたい衝動に駆られて。 「ダメ……」  奏芽さんはいま、大事な会合の真っ最中なのだから、邪魔しちゃ駄目だと心の中でもうひとりの自分が懸命に指を押し戻す。  そんなことを繰り返していたら、つい震える指先が通話ボタンをタップしてしまって。  プルルルル……という呼び出し音に慌てた私は、急いで通話ボタンを切った。  ――もっ、もしかしてワン切りになっちゃった?  思ったけれど、きっと奏芽さんは今、賑やかな場にいらっしゃるはずだから、大丈夫だよね?と自分をなだめる。  なのにすぐさま折り返すみたいに着信音が鳴り響いて、そのことに驚いた私は思わず手にしていたスマートフォンを床に取り落としてしまった。  その衝撃で、どうやら通話になったみたいで。
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