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『――凜子?』
ガヤガヤした喧騒をバックに、大好きな奏芽さんの声がスマートフォンから聴こえてくる。
「かっ、奏芽……さんっ!」
急いでスマホを床から拾い上げて耳に当てたら、『もしかしてもう家か?』と聞かれて、23時半を過ぎたら「帰りました」とメールを入れようと思っていたのに、ワン切りなんてしちゃって大失態だ、と心の中で嘆息する。
「ごめんなさい。い、いま帰ったところですっ」
本当はまだ居酒屋で四季ちゃんと一緒だと嘘をつきたかったけれど、奏芽さんの方の騒がしさを思うと、逆にこんなに静かな場所で電話を受けていて居酒屋だなんて言っても、嘘なのがバレバレだと素直に話すことにした。
その諦観が、寂しくて意気消沈したみたいに聞こえたみたいで、奏芽さんが電話口で息を呑んだのが分かった。
『凜子、ひとりで大丈夫か?』
私が酷い目に遭ったことを知っている奏芽さんが、心底心配そうに尋ねてくる。
奏芽さんにそんな思いをさせてしまうことに、胸の奥がズキンと痛んだ。
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