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奏芽さんとの電話を切ったあと、しばしぼんやりとソファにもたれていた私だけど、こんなんじゃ、奏芽さんが戻っていらした時に強がっていたのがバレてしまうと思って。
「お風呂入ろっ」
自分を鼓舞するみたいにそう声に出すと、勢いをつけてソファに沈み込んでいきそうな身体を起こした。
お湯を張るのが億劫で、シャワーで済ませたお風呂は、タオルドライ後の身体から熱をどんどん奪い去って、ちょっぴり寒くて。
初夏とはいえ、まだまだ夜は風がほんの少し冷気をはらんでいる。
私は窓辺に近づくと、網戸にしていた窓をそっと閉めた。
そうしてソファにうずくまって、背もたれに無造作に掛けられた奏芽さんのパーカーを手元に手繰り寄せると、それで身体を包み込む。
ドライヤーで乾かした髪の毛は、ゆるっとひとつ編みにしてある。
髪の毛で覆われていない首筋が寒くて、ギュッとパーカーの前を合わせるようにして首をすくめて。
寒がりの私が部屋で縮こまっていたら、奏芽さんがよく上に羽織らせてくださる黒のシンプルなパーカーは、ファスナーで前開きに出来るデザインだ。
「奏芽さん……」
布地に鼻先を埋めるようにしてスン、と息を吸い込むと、奏芽さんがいつも身にまとっていらっしゃる、柑橘系の香りがふんわりと鼻腔を満たして、ちょっとだけホッとする。
静けさを追い払うようにテレビをつけて、観るとはなしに画面を眺めていたら、少しずつ眠くなってきた――。
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