■邪魔してごめんなさい/気まぐれ書き下ろし短編

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 夢の中なのにその息遣いや温もり、そうして柑橘系の香りがとってもリアルで。  眠りに落ちるとき、奏芽(かなめ)さんのパーカーにくるまっていたからかな?と、夢と(うつつ)の境目でぼんやり思う。  と、身体がひんやりしたマットレスの上に載せられた感触がして、その冷たさに「ひゃんっ」と思わず眉根を寄せて。  温もりを求めるみたいに奏芽さんを探して手が空中を彷徨(さまよ)った。  その手を不意にギュッと握られて、ベッドに縫いとめるように押し付けられてから、 「凜子(りんこ)、いつまでも寝ぼけてっと、このまま襲っちまうぞ?」  と耳元でささやかれる。  吐息が耳朶をくすぐる感触がくすぐったくて首をすくませながら、「……だって、寂しかったんだもん」と唇を尖らせてみる。  夢の中でぐらい本音を漏らしてワガママを言っても……許されるよね?  私、今日はすっごく頑張ったもの。  特にさっきの電話。  よく、「寂しい。早く帰ってきてください」って言わずにいられたねって自分で自分を褒めてあげたい。  そう思ったんだけど。
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