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いとも簡単に私の下の名前をゲットして、知ってすぐに当たり前みたいに呼び捨てするようになって。
そんな馴れ馴れしい彼と話しているうちに、私も彼のことを「鳥飼さん」ではなく「奏芽さん」って呼んであげたい気持ちにさせられていて。
オマケに言葉を濁して誤魔化したのに、あれ以来のぶちゃんと会えていないこともエスパー並みに見抜かれてしまった。
何なのこれ。
この人、魔法使いか何かなの!?
私はソワソワする気持ちを抑えながら、すぐ隣にいる奏芽さんをチラ見した。
***
そう。私はいま、その魔法使い……もとい奏芽さんと一緒に、横並びでタクシーの後部シートに座っている。
バスに乗り遅れた私を助けるという名目で同乗してくれている奏芽さんに、大学まで相乗り?で送ってもらっている最中だ。
乗り込んだら執拗にあの夜のことについて言及されるのかな?なんて少し覚悟をしていたのに、案外なにもリアクションを起こされないことに逆にソワソワしながら――。
「あ、そうだ、凜子。ゴム」
結局あの夜、逃げるようにいなくなっちまったから返しそびれたじゃねぇか。
わざとらしく恨めしげな顔をして言う奏芽さんに、でも今朝出会ってからこっち、ヘアゴムのことが話題に上がっても返そうとしてこなかったじゃない、って思ったりして。
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