大嫌いな常連客

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 さほど仲もよくないのに、ほんの少し顔見知りというだけで、こんな風に異性の前に立ちはだかって足を止めさせるところなんて馬鹿なんじゃないの?って思ってしまう。 「今日もご機嫌斜めだね、向井ちゃん。なになに? もしかして女の子の日?」  信じられないぐらいデリカシーのない言葉と一緒に、無遠慮に伸ばされた彼の手が、私の左側のお下げをつまみ上げる。 「ゴム、まだ返せてねぇけど、違うのつけてるの?」 「触らないでっ!」  咄嗟に跳ね除けようとした手を、待ってましたとばかりにギュッと掴まれて、「却下」ってニヤリとされた。 「いきなり親しくもない女性の髪を引っ張ったり、手首を掴んだりするなんて失礼だと思わないんですか?」  こういうやからは少しでも甘い顔をしたらすぐにつけ上がる。  前もそのせいで、この男にヘアゴムをほどかれたのだ。あのとき奪われたの、まだ返してもらってない。  私はキッと彼を下から睨みつけると、掴まれた手を振りほどこうと引っ張った。 「……っ」  さして強く掴んでいる風でもないのに、全然離れてくれない手に焦燥感が募る。  バスの時間だって迫ってる。 「離して!」  焦りつつ言ったら、「お願いできたらな」って笑われた。  何でお願いしなきゃいけないの!?  思ったけれど、力では絶対に敵いそうにないので、不本意ながら言い直す。
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