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「間に合って良かったじゃん」
奏芽さんはニヤリと笑ってそう言うと、びっくりするぐらいあっさりと手を振って、一緒に乗ってきたタクシーから一歩も降りることなく私の前から姿を消してしまった。
その態度は本当、拍子抜けしてしまうぐらいに呆気なくて。
それって私にとっては願ったり叶ったりだったはずでしょ?
なのに一緒に降りるとか妙なわがままを言われて食い下がられなかったことに、逆に妙な違和感を感じて居心地が悪いとか……正気じゃないよ、凜子。
私自身、結局車内であの女の子――和音ちゃん?――のこと、気になってたくせに聞けなかったし……奏芽さん自身からも何の弁解もなかった。
ん? 弁解?
そこまで考えて、何で彼が私にそんなことしないといけないの?ってハッとした。
私、奏芽さんに、そんなことを求めるような間柄じゃない。
付き合おうって軽いノリで言われたけれど、OKしたわけじゃないし、何より私、不倫はしたくない。
彼の私生活に深く踏み込むつもりのない私に、奏芽さんだって自分の対人関係諸々について、あれこれ説明する義務はないはずで。
私、本当にどうしちゃったんだろう。
自分でも自分の思考回路が意味不明過ぎて戸惑ってしまう。
こういう説明のつかない状態、すごく気持ち悪い。
いつの間に私、あの人にこんなに心かき乱されてしまうようになったの?
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