相手のことを知らないのはどっち?

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「それに……ほら、弁当箱。ねぇと困んだろ、明日。迎えはそれ返してやるついでだ」  って……。え、何? お弁当箱は人質なの?  言うことがいちいち小学生男子みたいで、本当にこの人は私よりも14歳も年上の大人の男性なんだろうか?と思ってしまう。 「だからっ! それ、自分で持って帰りますってば」  言って奏芽(かなめ)さんの横に置かれた弁当箱の包みに手を伸ばしたら、サッと避けられて、「自分が作ったの、食べられずに処分するのって……何か切ねぇだろ。そういうの、俺、凜子(りんこ)にさせたくねぇんだよ」ってそっぽを向かれた。  この人は本音を言うときにはそっぽを向く気がする。  いつもは傲慢(ごうまん)で、嫌味なくらい斜に構えていて……バカみたいにおちゃらけたところがある人なのに、実は物凄く不器用なのかな?って思ってしまった。  もしかして本当に言いたい言葉はなかなか口にできない人なの?  それに……正直いま言われた言葉は、かなりグッときてしまった。  私まで奏芽さんの照れが伝染して頬が熱くなってしまう程度には。 「ばっ、バカみたいです、奏芽さん。わ、私、そんなにやわじゃないです」  目一杯虚勢を張って強がってみた言葉も、いつもみたいにできなくて、しどろもどろでどこか角が取れたみたいに丸くなってしまった。 「強がんなよ。本当は凜子、弁当1人で食うのだって寂しかったんだろ?」  よしよし、って頭を撫でられて、鼻の奥がツンとくる。  それが、情けなくて無性に腹立たしくて。  そんなことない!って大声を上げてキッと睨みつけたいのに、涙がこぼれ落ちてしまいそうで、思わずうつむいた。
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