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「ねえ、紗々ぁー」
音々が僕を見上げる。猫がじゃれつくように僕の腹の上をゴロゴロ。
「どしたの?」
「どしたのはウチの台詞だよ。遠い目しちゃって、悲しそうな目で見てくるし。まるで初恋に遭ったみたいだね。」
「初恋!?」
声が裏返ってしまった。
「驚くことじゃないじゃん。私たち恋人同士だし。」
ねえ、ぎゅってして。と音々が僕に甘える。僕はロボットのように腕を動かし、音々の体を抱きしめた。柔らかくて壊れそう。優しい気持ちには悲しいほどなれる。でも、同時に壊したいほど抱きしめる気持ちにはなれなかった。
違う。絶対に違う。今の僕が求めているのは、なし崩し的に作られた恋愛関係ではないんだ。否定した後で、僕は音々に対し罪悪感が湧いてくる。ごめん、ごめんねって心でたくさん謝るはずなのに、その3秒後には恋人の親友のことを思い出して、脳に花が咲く。
変だ。花がたくさん咲いて、いっぱいありすぎて胸が苦しいはずなのに、嬉しい。熱っぽいはずなのに体は軽い。いけないと分かっているのに、心は反比例。
この矛盾した感情の名前は初恋と言うのだと、この時初めて知った。
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