雨女の涙雨

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 で、或る日、村長は建造の家を訪ねた。 「これはこれは村長様。態々お越しくださってすいませんことです。」 「今日は上がらしてもらうよ。」 「はあ、むさ苦しい所ですいませんけど、どうぞお上がりください。」  建造は村長が囲炉裏の客座に座ると、遜った儘、横座ではなく木尻に座って言った。 「こないだはご相伴に預かりましてすいませんことです。」 「ああ、礼には及ばんよ。」 「で、お伺いしてすいませんけど、今日はどんな御用でございましょう?」 「いや、用というほどの事じゃないが」と村長は言いかけたところで雨女がやって来て自分にお茶を差し出し、(いん)に籠もった儘、奥に引っ込んだのでこう言った。 「いやにじめじめしておるな。」 「はあ、ハッハッハ!いやはや、すいませんことで。何せ陰気な女でして。」 「陰気なこともあって苛めとったんじゃないのか?」 「えっ、いや、何をおっしゃいますやら。出しゃばるようですいませんけど、村長様、あっしがそんなことをする筈はございませんよ。」 「しらばくれても無駄じゃ。先日の集会でわしの話を聞いて自分の上さんが雨女だと知ったもんじゃからお前さんはストレスの捌け口として上さんを苛めなくなった代わりに弱者を苛めるようになったことはお見通しじゃ。お前さんは表ではいい人に見せかけ裏では非道を働く実に卑劣な奴じゃ。そうじゃろ!」 「え、あ、あの、それは確かに、いや、その」と建造はしどろもどろになって弁解の言葉を探したが、見つからず結局、観念して言った。「流石は村長様、よくお見抜きなさいましたが、それはすいませんけど、内緒にしておいてもらえませんでしょうか。」 「お前さんが改心するのなら内緒にしておいてやる。」 「それはもうすいませんけど承らせてもらいます。」 「しかし、お前さん、上さんも弱者も苛めないとなると、どうストレスを発散する気だね?」 「えっ、あの、それはすいませんけど、分かりません。」 「無理にいい人を演じなきゃいいんだよ。そして人と腹を割って付き合えばいいんじゃよ。それでこそ改心したことになり、ストレスが溜まらなくなるのじゃ。」 「はあ、なるほど、大変ためになる講釈をお聞かせくださいまして、すいませんことでございます。」 「お前さん、すいませんと言う口癖も直した方がいいよ。ストレスが溜まらなくなるじゃろうから。」 「はあ、これまたお助言をいただき、すいませんことでございます。」  そう言ったのとまた頭を下げたのを見て村長はガッハッハ!と大笑いするのだった。
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