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「…体調は大丈夫か?」
「え、あー大丈夫です。ちょっとふらつくぐらいで。」
「血を吸いすぎたせいだな。」
距離を取っていたはずなのに、いつの間にかすぐ側まで来ていて。
グイッと腕を引っ張られ、ソファーに座らされた。
「今日はゆっくりしておけ。」
「…………はい。」
気遣ってくれて、良い吸血鬼。
だけど。
何で隣に座って、肩組んでくるの?!
い、居たたまれないよー。
恥ずかしくて、頬が赤く染まっていくのを止められない。
そんな私を間近で見ていた吸血鬼は、目を細めて。
髪をゆっくり鋤(す)いてきたかと思うと、そっと髪の先にキスを落とした。
ななな!ナニコレ?
軽くパニックになっている私とは対照的な。
真剣な顔で、見つめられて。
どんどん、この場から逃げ出したい気持ちが膨らんでいく。
「あの、な、何か?」
「………実は…頼みがある。」
「…頼み?」
「……嫌ならそう言ってくれていいのだが…」
「…はい。」
本当に言いづらそうに、視線をキョロキョロさ迷わせた後。
意を決したように。
彼は口を開いた。
「1カ月毎に、血を分けてくれないか?」
「……え…」
ふー。とため息をついて。
彼は私の肩から腕を外して、真っ直ぐ前を見つめた。
「俺は、静かに暮らしていたいのだ。」
「…静かに。」
「そうだ。むやみやたらに血を取ろうと思わない。ただ、最低限1カ月に1度は血を取らなければ死んでしまう。」
「えっ?そうなんですか?」
「そうだ。」
「てっきり、銀の杭とか、銀の弾丸とかで死ぬのかと……」
「あぁ、それは俺も見たことがあるぞ。人間の作ったフィクションだな。」
「へぇー。」
「まぁ、俺は昨日死にかけていたわけだが…」
「えっ!死にかけてたんですか?」
「お前に出逢わなければ、あのまま死んでいたかもしれんな。」
何でもないように言うこの人は、本当は…死にたかったのかな。
どうしてか、そんな風に感じてしまって。
何も言えなくなる。
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