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1章
高い天井からぶら下げられたライトが輝き、たくさんのカメラがスタジオの中心へレンズを向けている。
テレビ画面で見るのよりずっと奥行きのあるこの広い空間を、ディレクターやカメラマンなど大勢の人が行き交う。画面に映っているのはほんの二、三人なのに、それを支える裏方さんのなんと多いことか。
今、スタジオで収録されているのは朝の情報番組『まるっとモーニング』。
平日の毎朝八時から毎日放送されているこの番組は主なターゲットを専業主婦にしており、だから番組のセットもオレンジや黄色を中心にした可愛らしい内装になっている。
週に一度コメンテーターとして出演する私の服装もベージュの清潔感のあるワンピースで、髪型だって華やかになりすぎないよう気を使っている。
主婦感を漂わせること、この人は私たちと同じ側、と視聴者に感じてもらえることが大切なのだ。
CMがもうすぐ終わる。最後まで私のメイクを整えてくれていたアシスタントのミキちゃんが、大急ぎでセットの袖へと飛び込んだところでカメラが動き出した。
「さぁ、お次は『今日のお怒り♡』のコーナーです。コロナで学校がお休みになって早や二週間。そろそろ子どもたちの苛立ちも、それをなだめるお母さんたちの我慢も限界にきてる頃なんじゃないでしょうか。そんな中、今日も取り上げるのはやっぱりコロナの話題なんですが……」
テレビをつけても毎日コロナばっかりでいい加減うんざりしますよねぇ、なんて苦笑しながら私はディレクターさんの足元にあるモニター画面へちらと視線を向けた。
そこには今、テレビに映っているのと同じ映像がそこには映し出されている。私の立ち姿の下に流れるテロップは『五十里円佳 都内で美容院を経営するカリスマ美容師。夫はフレンチの巨匠柳沢礼。一児の母』という短い紹介文。
その内容を確認した私は再びまっすぐカメラのレンズを見つめ直した。そして事前に書いていたフリップを掲げて、今日のトークテーマを発表する。
「『医療従事者への心無い差別はやめて!』」
フリップの端っこにはぷんぷん、と怒っている私のイラスト付き。
このコーナーは私、五十里円佳が日常生活で感じた怒りを訴えるものなのだ。
「あぁ、医療関係者への差別って最近、社会問題になってますよねぇ」
メインMCを務めるイケメン君も大きく頷いて言った。
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