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きらりと輝くハニーブロンドが残像を残しながら揺れる。
「ああ弦音さん! 待たせてごめんよ、寂しい思いをさせてしまったね」
穏やかな空気をぶち破って入室してきたのは、ファイルを抱えた前田・ルーベルト・嘉だった。嘉は生徒会で庶務を任せている後輩だ。
うなじにかかるほどで切り揃えられた見事なハニーブロンドが光を反射してきらきらと輝いて、それに負けない華やかな相貌は海外の血を感じさせた。
さながら異国の王子様。嘉はその王子様フェイスを曇らせながらファイルを机に投げ捨て、弦音に駆け寄りその手を取った。
凌牙が迷惑そうに目を眇めるのを尻目に、嘉はキラキラとエフェクトを背負い弦音の前で片膝をつく。
「こんなに冷たくなって……ごめんよ、すぐに温めてあげるからね」
弦音の手は嘉の手が冷たく感じるほどには温かかったけれど、嘉は気にすることなく両手で包み込むようにして温めだす。
嘉はロマンチストというかキザというか、恋愛小説の王子様顔負けの言動をとり、それが似合うのだから始末におけない。嘉ほど顔面で得をしているな、と思うひとも珍しい。
嘉は見た目良いものが好きで、美しいひとを見れば男女年齢問わず口説くのはもう癖みたいなもののようだった。まあ強引に迫ることはなく、王子のように紳士的な振る舞いをするのでまだましだけれど。
弦音は相変わらずの嘉に溜息をつくと、無残にも投げ捨てられたファイルに視線をやる。
「それはなにかな」
「弦音さん、今は私だけをみておくれ。ああ弦音さんのその夜のような瞳はいつ見ても美しいね。まるで黒曜石のようだ。烏の濡れ羽色の瞳に見つめられるだけで海綿体を刺激されるよ」
「嘉、また国語赤点だっただろう」
下ネタも甚だしい。おまけに夜なのか石なのか鳥なのかもよくわからない。
嘉はロマンチストでキザなのに日本語が不自由で、言葉のセンスは壊滅的だった。日本生まれ日本育ち、その血の半分は日本人のくせに、テスト前にはいつも「私は外国人だ!」と叫んでいる。
「おつる太夫、お疲れさま」
呼ばれ、振り返る。見るとそこには生徒会書記である東城くゆるがいた。ブルーベリー色の髪がつやつやと輝いている。
「キンちゃんはなにをしているんですか」というくゆるに「キンちゃんって呼ばないでくれ!」嘉が吠えた。
くゆるは個性的な生徒会役員のなかでも飛び抜けて独特だ。
どんなときも主食はスイーツだと言って憚らないし、役員のことをあだ名で呼ぶのだが、その時々の気分で決めているのか日によって違ったり、下手したら一日のうちに何個も変わったり、数ヶ月同じあだ名だったり、と変則的だった。
今日はおつる太夫の日らしい。まさか身長百七十センチを超える男が遊女の階位、それも最高階位で呼ばれるとは。弦音は驚いたけれど、弦音の美しくも滴るような色気のある容姿にはよく似合っていた。
不思議そうに首を傾げたくゆるは弦音が背を預けるソファへ座る。座面が沈むのを背中で感じた。
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