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「峰岸はどうしようもないが、榊は話が分かるやつだ」
「意外だね。榊委員長はへらへらしてるし、凌牙さんと気が合いそうにないのに」
「お前とは気が合いそうだな」
「凌牙さんと違って私の思考は柔軟だからね」
「流石だな、キンちゃん」
「キンちゃんって呼ばないでくれ!」
凌牙も嘉も、じゃれ合いながらも手は止まっていない。直輝に負けず劣らずこのふたりも優秀なのだ。
弦音は憤る嘉を「まあまあ」と宥めた。
「僕らは不作の生徒会らしいからね。最近はそうでもないけど、発足当初は風紀どころか全校生徒に舐められていただろう? 今更峰岸副委員長なんて気にしないよ」
今年の生徒会は不作だ。と、誰が初めに言い出したのか、今となってはもう分からない。
昨年十月に行われた、主に顔と家柄と成績でランク付けされる人気投票ランキングで、一位が弦音。二位が流。凌牙は三位で、少し差が開いて嘉が七位だった。
直輝は言わずもがな、自称平凡らしくランキング圏外。くゆるは十位。くゆるの顔立ちは少し独特で、好き嫌いが分かれるのだ。
そしてもうひとり、生徒会庶務の君之崎宏大は顔だけだとランキング上位に入れたのだけれど、その他で大きくマイナスされて圏外だった。
「しようがないさ。凌牙さんはまだ正当だけれど私はランキング入りしながらクラスはAだし、直輝さんはSクラスだけどまあ顔がね、あれだから圏外。おまけにくゆるさんもBクラスで、宏大なんて底辺のDクラス、しかも学園一の問題児だ」
嘉はおどけた調子で言うけれど、ランキングを無視した指名で出来た生徒会に当初は批判の嵐だった。今でこそ食堂に顔を出せば歓声で出迎えられるけれど、少し前まではその声も小さかったのだ。
本来なら総合ランキング二位の流か三位の凌牙が風紀委員長になり、総合ランク四位の榊委員長や五位の峰岸副委員長といった顔、家柄、成績共に優秀なひとが生徒会メンバーになるはずだったのに、弦音は生徒会長に選ばれだ途端真っ先にランキングを無視した指名をした。
生徒会長は生徒から選ばれるが、役員は会長が指名できる。これはきちんと校則として定められ、生徒手帳にも記載されている。だから弦音はそれに則って、恒例を無視した異例の、けれど真っ当な人選をした。
「家柄で言えば私はそこまで立派ではないしね。生徒会というよりは元々私たち、今の二年生が不作なのさ。まあ、今年の一年生は豊作みたいだけどね」
フォローと共に飛んできた嘉のウィンクを有り難く受け取って、弦音は手元の作業に集中した、のだけれど。
「あー、風紀に提出する書類、誰が持ってく?」
という直輝の問いに室内にぎこちない空気が流れる。
「私はこのあと子猫ちゃんとの約束があるから遠慮させてもらうよ」
「時間が空くなら一度寮にデータを取りに戻りたい」
凌牙は確認のため、そして嘉は言い訳と共に断りを告げ、直輝の視線が弦音に向く。が、すぐに逸らされた。弦音が風紀委員室へ行けば、愛斗が怒り狂うだろう。
残るはくゆると直輝だが、くゆるは聞こえていなかったのかわざと無視しているのか顔さえ上げなかった。
はあ、と直輝が大きく息をつく。
「分かったよ、俺が行けばいいんだろ」
「わあ、ありがとう直輝さん! さすが平凡のなかの平凡だ!」
「それ褒めてないからな」
「すまんがよろしくたのむ」
素気無く断った割に労わる凌牙に「おー」と弱々しい返事をして直輝は立ち上がった。
面倒臭そうにしながらもそのまま扉へ向かう途中、ふと思い出したように言う。
「そういや、最近宏大見てないな」
確かに。くゆるを抜いた三人は頷いた。
嘉と同じ二年生で生徒会庶務である宏大は、庶務としては完璧で、仕事はきちんと熟すのだが、少々素行に問題のある生徒だった。
「呼び出してみるよ」
そう言って弦音はスマホから目的の人物を呼び出した。電話の相手は宏大ではなく、別の人物だ。
弦音は手早く連絡を終えにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、俺は風紀行ってくる」
弦音の笑顔に顔を引攣らせた直輝が生徒会室を出て行ったと同時に「私も」「すこし時間をもらう」と嘉と凌牙も一時退出した。
「しかたない。会議はみんなが戻ってきてからだね。くゆるは? どうする?」
「……パン生地を寝かせてるから一度戻らなきゃ」
「そっか。なにを焼くの?」
「シナモンロールです。持ってくるね」
「それは楽しみだ。くゆるの作るものはいつも本当に美味しいからね」
「ありがとうございます。楽しみにしてて」
今まで会話に参加せずに学園ホームページの改装を行なっていたくゆるは軽く手を振り出て行った。
それに重なるようにジジッというノイズが響く。
『二年Dクラスの君之崎宏大くん、生徒会長からの呼び出しです。至急生徒会室までお越しください。繰り返します。二年Dクラスの君之崎宏大くん、生徒会長からの──……』
麗らかな午後。部活生の活気ある掛け声をかき消す放送が響き渡った。
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