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優星がアンチ生徒会に囲まれている。といっても、今の時点でできることは少ない。
今のところチーム分けを操作、籤をすり替えたという証拠もなにもないのだ。
「戻る?」
『いや、そのままで頼む』
「いつの間にすり替えられたんだろう」
『すくなくとも最終確認をした今朝までは、俺らが仕組んだとおり、國江田少年のチームは穏健派で固められてた。だから今朝から、チーム分けを発表したゲーム直前までの間に操作されたのは間違いない』
「データは?」
『ご丁寧に書き換えられてるよ』
「そんな短い間にできるものかな」
『できちまったんだろうなあ。今パソ研に協力要請してるけど、そもそも書類が多かったからな』
「書類も?」
『ああ。ぜーんぶなくなってる』
直輝によると、そもそも優星と同じチームになるはずだった生徒たちはまったく違うチームに振り分けられていたという。書類やデータも書き換えられていたそうだ。
直輝はすり替えの証拠を得るためにパソコン研究部に協力要請すると言っているが、ゲーム中の今、それは後に回すしかないだろう。
大々的に動けば混乱を招きかねないし、まさか「優星が危ないから」だけでチームを変えることはできない。全てを書き換えられた今、証拠も、不正を指摘できる正当な理由もなかった。
できることといえばせいぜい優星に見張りをつけることくらい。
もともと見張り、というより護衛は風紀委員会から用意して、秘密裏に優星につけている。そこと連携を取りながら様子を見るしかないだろう。
でも必ずなにかが起きる。でないと犯人もわざわざチーム分けを操作したりしない。
こうして優星が軽んじられるのも、標的にされるのも、今の國江田の立場が弱いせいだった。本来なら國江田に手を出そうとする生徒はいないのだから。
やっぱり狩屋が國江田を助けたのはまずかったか。思って「でも」という直輝の声に引き戻される。
『むやみに騒げば犯人の思う壺かもしんねえしな』
「そもそもゲーム前に気付けていれば、って話だけど、まあ起きちゃったものは仕方ない。犯人も分からない今は、國江田くんへの被害を未然に防ぐことを第一に考えるべきだ」
『だな。とりあえず風紀と連携取り合いながら様子見する』
「今國江田くんは?」
『緑陽講堂らへん』
「随時報告よろしくね」
『りょーかい』
優星はまだ危害を加えられた様子はないらしい。そもそもその、護衛の風紀委員だって、元々は優星と同じチームになるはずだったのだ。
『弦、気を付けろよ』
真剣なトーンで言う直輝の声を聞いて、弦音はそのまま緑陽講堂へ向かうため中庭を進む。
緑陽講堂から左右に道が伸びており、東側が体育館エリアだ。両体育館はゲーム中は立ち入り禁止エリアに指定している。
頭のなかで色々と考えを巡らせながらも、もちろん鬼役としてゲームにきちんと参加している。
弦音を見て蜘蛛の子を散らすように逃げる生徒たち。なかには惚けるものや固まるものもいて、そういう生徒たちから次々と尻尾を奪い、追撃のウィンクで撃沈させていた。
「赤色の長い尻尾、癖のあるモジャモジャの髪、スリッパを履いている……合ってるな」
「いってみる?」
「いってみようぜ」
薔薇のアーチを潜りながら声のしたほうに視線を向けると、そこには弦音に背を向けるかたちで生徒が五人、同じ方向を見てぶつぶつと打ち合わせをしていた。
話がまとまったのか、五人の生徒が視線の先、他のチームに恐る恐る近づいていく。
そのなかのひとり、屋外にもかかわらずスリッパを履いている生徒に向かって五人一斉に口を開いた。
「『飛べない豚は』」
合言葉を告げ。
「『ただ可愛い』」
合言葉が返ってきた。
「やった!」
「すげえー!」
わいわいとはしゃぐ生徒たち。
依頼者が隠れていたチームの面々は「お前依頼者だったのかよ」と目を見開いて驚いている。
依頼者は照れ臭そうに笑った。
「それで、依頼内容は……」
チームを代表して、青色の尻尾をつけた生徒が依頼者に向かう。
尻尾の色はネクタイの色と同色だ。つまり一年生が緑、二年生が赤、三年生が青、といったように学年が一目で分かるようになっている。
依頼者は同じチームの生徒に囃され照れ臭そうにしながらも、依頼内容を告げるために青色の尻尾の生徒の前に出た。
「実は、靴を盗まれたんです。だからスリッパを履いてるんですが……。お願いします、俺の靴を見つけてください」
どうやら盗まれた靴を見つけるのが依頼らしい。
「赤だから二年生ですよね?」
「靴箱から盗まれたのか?」
「靴箱なら、代わりになにか入れられてませんでしたか?」
矢継ぎ早になされる質問に、依頼者はあらかじめ決めていた設定通り次々と答えてゆく。
しばらく依頼者を質問ぜめにした後、探偵たちは意気揚々と駆け出した。
「落し物として届けられてないかな」
「管理室に行ってみようぜ!」
それを見送り、弦音は歩を再開する。
きゃらきゃらと聴こえる笑い声。
皆思い思いに楽しんでくれているようだ。
ほっと安堵の息を吐いたとき、急に視界が明滅した。
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